主人公は誰だったのか。ファイナルファンタジーXII The Zodiac Ageストーリー考察。

ごくごく個人的な意見だけれど、オフラインRPGの面白さは、いかに非現実な世界をロールプレイできるかにつきる。ロールプレイをするために重要な要素となる没入感は、快適に遊ぶための各種システムの完成度、そして魅力的な登場人物によって描かれる物語である。ファイナルファンタジーXII The Zodiac Ageは、世界とシステム。そしてそこで展開される物語が非常に壮大且つ魅力的で気がつくと時間を忘れて没頭してしまう、個人的にどストライクな傑作だった。

特に印象的だったのはストーリー。

一人一人が自分の正義のために生きているけれど、その正義は誰かにとって仇をなす。今回のFFで描かれていたのは、逡巡しながらも、正義を盾に立ち上がる人々の物語だった。エンディングを迎え、一つの疑問が湧いた。

この物語の、主人公は誰だったのか。

通常の物語であれば、主人公は説明されなくてもわかる。今回も普通に考えれば彼だろうというキャラクターもいる。ところが、最後まで遊んでみると、あれ?っと疑問がわくのである。

という訳で、物語の主人公は誰だったのか。考察してみることにする。多分ネタバレを含むことになるので未プレイ、未クリアという方はここで読むのをやめたほうがよいかもしれない。もしかしたら事実誤認があるかもしれないことも最初に断っておく。

まず表向きにはおそらく、ヴァンという青年が主人公である。ダルマスカ出身で帝国の侵略を受ける。空賊にあこがれている。そして彼の幼馴染のパンネロ。一般的には彼女がヒロイン枠で確定だ。ファイナルファンタジーのテンプレート的にはヴァンが主人公でほぼ間違いない。しかしながらプレイしていると、ヴァンはダルマスカと帝国のいさかいに明らかに巻き込まれているだけであることがわかってくる。

中盤以降、特に操作するキャラクターとしてヴァンを選ばないことが増えてくると、はっきりしてくる。じゃあ誰か。ということになる。テンプレート的な主人公ではなく、脚本家が物語の軸として描きたかったのは誰だったのか。

話の軸はダルマスカと帝国。国と国との争いである。中心人物は、ダルマスカ側の王位継承者であるアーシェと帝国次期皇帝候補のヴェイン。アーシェが仲間の協力を得て、元凶であるヴェインを倒す。一番シンプルに考えるとこれがメインのストーリーラインでほぼ間違いない。しかしこのメインのストーリーラインは、作り手が本当に描きたかったことを盛り上げるための演出だったのではないかと思った。ここでいったんパッケージのイラストを眺めてみることにする。

FINAL FANTASY XIIのロゴを起点に、描かれるヴァンとパンネロ。その後ろには少しサイズを大きくして、バルフレアとアーシェがいる。右側にはストーリーを彩る重要なノンプレイアブルなキャラクターたち。

そしてその背後。

一番大きく、さらにシンメトリックに描かれているのが、バッシュとジャッジ・ガブラスだ。バそしてバッシュサイドの背景は明るく、ガブラスサイドの背景は暗い。プレイを開始する時点は気付くことができないこのパッケージの人物の配置と明暗だが、物語を一通り終えてから見ると、このパッケージにこそ作り手のメッセージを感じることができる。

主人公はバッシュとジャッジ・ガブラスだ。バッシュとガブラス。普通に遊んでいるとラスボス戦手前まで、この二人の関係は不明である。パッケージを見ても二人が並んでいるようにしか見えない。もっというとジャッジは大方似たような鎧を着ており、パッケージを見てもこれがガブラスだと分かる人がどれだけいるんだろう。最後の最後で明らかになる事実。この事実こそがストーリー上一番の緩急ポイントであり、つくり手が一番描きたかったコアだと核心した。

二人の因縁と邂逅を描くために、メインのストーリーラインとして国と国との戦争が描かれてた。ただし反乱軍と化したアーシェ王女とバッシュだけでは話が進まないので、物語を一回り外側に繋いでいくために飛空艇を持ち移動の自由度がある空賊のバルフレアと、知識人としてフランが配役された。

実際後半に、世界を支配するキーファクターに深く絡むのが、バルフレアの父だったので、バルフレアは、バッシュと同じくらい戦う意味はあったと思う。(ガブラスが登場しなければ主人公当確だったかもしれない。)そしてそのバルフレアを巻き込むために必要だったのが、FF史上まれに見る、物語に絡まないFFテンプレートとしての主人公のヴァンとパンネロだ。

彼らはバッシュとガブラスの邂逅、祖国を取り戻したいアーシェ、父との因縁に決着をつけるバルフレアの物語を描くために配役された一番外側のキャラクターだった。テンプレート的には主人公なのに、一番外側に配役されているのは、実に面白いストーリーテンプレートの崩し方だと感じた。

物語の作り方として、最後にヴァンを主人公として戻すチャンスは確かにあった。ヴァンにとってガブラスは忌まわしい相手であり、ヴァン側の義を貫くのであれば、ガブラスはヴァンによって打たれるべきだった。でもそうしなかったのはバッシュとガブラスが物語のコアだったからではないか。祖国奪還に燃える王女と、圧倒的な力で制圧にかかる帝国。二者の争いにまつわるストーリーの裏にあったバッシュとガブラスの物語。というのが本作の主人公はだれだったのか。に対する私の解釈だ。

ほぼ妄想なので、本当のところは知らないけれど。(クリアした人の他の意見を聞いてみたい。)色々解釈する余白があるのは面白い。より深くFF12の世界を知りたくなったので、シナリオアルティマニアを中古で買ってみることにする。